完全長cDNA解析の意義

完全長cDNAの解析により以下の事柄が可能となる
3-1. 詳細な転写開始点の決定

3-2. 隣接するプロモーター領域の同定

3-1. プロモーター領域の同定 完全長cDNA解析の意義
  プロモーター中には転写制御に重要な数々のDNA配列モチーフが含まれており、 遺伝子転写制御の解明にはプロモーターの単離と解析は不可欠である。 それにも関わらず、現在までに解析の終了しているプロモーターの数は非常に限られており、 事実、標準的な真核生物プロモーターのデータベースである Eukaryotic Promoter Database 中に登録されているヒト遺伝子のプロモーターは数百に過ぎない。 これはほとんどの遺伝子について正確な転写開始点が同定されていないことに起因する。 従来の転写開始点決定法であるS1マッピング、 プライマー伸張法、5'RACE法といった方法は、技術的に困難であり、 またしばし不正確な転写開始点情報を与える。これに対し、オリゴキャッピング法でcDNA libraryを作成し、 ランダムに単離された完全長cDNA配列を元に転写開始点を決定する我々の手法は大規模に正確な 転写開始点情報を蓄積するのに適している。
3-2. 転写開始点(TSS) の正確な決定 完全長cDNA解析の意義
  転写開始点の正確な決定が可能になった結果、ヒト遺伝子のほとんどについて、転写開始点は、 従来考えられていたより広範囲にわたって分布することが明らかとなった。 これまでも、in vitro再構成系での主としてウィルスプロモーターを用いた実験で、 特にTATAボックスを持たないプロモーターで広範囲にわたる転写開始が観察されていたことは事実である。 しかし、そこで観察された多様でダイナミックな転写開始現象が、 実際にヒトゲノム中で行われていることを 示したのは本研究がはじめてである。 むしろ、従来、転写開始点は「点」としてみなされてきており、 ほとんどの論文では一つないし数個の転写開始点を記載するにとどまっていた。 (詳しくはEPDを参照されたい。) すなわち多数の転写開始点が観察された場合でもそれらは見過ごされてきた場合がほとんどである。 しかし本研究により、ゲノム規模で転写開始点の決定が詳細になされるに至り、 転写開始点はむしろ転写開始領域のイメージに近く、 その領域から確率的に転写が開始されるといった機構を仮定するほうが自然であると思われるようになった。 本データベースに記載されている転写開始点の詳細な情報は、 転写開始機構に関する物理化学的な解明に有用な基礎的データを与えると我々は考えている。
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